第9回 アメリカンドリームとしてのベンチャー企業



24世紀では「労働の目的は自己向上と人類愛である」と明確に定義 され、貨幣経済が廃止されているそうである。これは日本でも熱心 なファンが多いアメリカのSFテレビ番組であるスタートレックの設 定です。今、絶好調であるアメリカ経済の大きな柱は、ベンチャー ビジネスであり、その基本は個人主義に基づく「自己向上」と「独 立」の精神なのです。自己向上のためには研鑚を積むだけでなく、 「挑戦」をしていく意識、また「挑戦」することを賞賛し、それに 失敗することがあっても再度のチャンスを与える風潮がアメリカには 根づいているのです。これが日本の社会意識との大きな違いです。

アメリカのベンチャー企業を語るときに、必ず例にあげられるのが DECです。第二次世界大戦後、すぐにアメリカでは、新しい産業の 創出が少ないことを懸念して、新規産業および起業を支援するシス テムの構築を行いました。それがアメリカリサーチアンドデベロップ メント(ARD)であり、今で言うベンチャー企業に投資をし、かつ 資金回収するために、その企業を支援する金融企業です。このARDが 1957年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生4人が作った会社 DECに7万ドルを投資し、14年後には5、000倍の3億5,000 万ドルの利益を上げました。つまり、14年後には貸した資金が5,000 倍になって戻ってきたわけです。このような金融企業をベンチャー キャピタルと呼び、将来成長が見込まれるベンチャー企業に投資し、 その投資資金が回収できるように、企業を支援します。アメリカでは このベンチャーキャピタルのシステムが非常に効率よく働いており、 ベンチャー企業への資金の還流がスムーズに行われています。

アメリカは資本主義経済であり、個人が自らの努力や能力によって、 利益を追求することは名実ともに正当化されています。いわゆる 正義であるわけです。その正義を保証するためには自由競争が基本で す。日本とは、この社会正義自体の意識が異なります。日本の社会正義 のキーワードは「平等」です。対してアメリカの社会正義は、「平等」 ではなく、「フェア」なことです。「フェア」とは、自由競争において 同一の条件で参加できることなのです。したがってアメリカでは、新しい 企業が仕事を始める場合、その仕事自体が優秀であれば受け入れられる ようになっています。日本では過去の経緯を尊び、如何に他に比べて 優秀な仕事をしようとも受け入れられません。日亜化学工業の小川信雄 会長が創業間もない時期に「アメリカに蛍光体の特許の使用を熱心に願い 出たら、使用権を全部与えてくれた」と言っています。フェアな交渉を すればチャンスが与えられるのです。