森井教授のインターネット講座 最新版(2003年8月25日掲載記事)



第241回 携帯電話メールの常識、その送信者の非常識


解説イメージ

最近、携帯のメールが関係した犯罪が話題になりました。一件は 携帯のメールによって、殺人を煽り、実際に殺人事件に発展した 事件です。殺人を躊躇していた犯人に、その殺人を扇動するメー ルを送り、実際に殺人へと至らしめました。実際に会ったり、 電話の肉声で話したりしたのではなく、携帯でのほんの数行のメ ールが人の命を奪うことになったのです。もう一件は、娘の母親 が、娘の同級生に、いやがらせのメールを送り、更に面識のない その母親にも誹謗中傷のメールを送り、名前を騙って、出会いサ イトに電話番号等の個人情報を載せたのです。この容疑者は栃木 県の県迷惑防止条例違反(嫌がらせ行為)と名誉棄損の疑いで、 逮捕されました。

携帯電話によって、メールがより身近なものなり、いつでもどこ でも誰でにでもメールを出せるようになりました。メールが直接 会ってでの会話や電話での会話に少なからず取って代わるように なったのです。しかし会話とメールとの本質的な違いが十分理解 されることなく使われているようです。メールと会話との本質的 な違いとは、双方向でないということです。もちろん、メールを 受信してから間髪空けずに返事を書くことが可能です。しかし受 信した文字からだけ相手の気持ちを推し量らねばならず、送信者 は、その文字だけで相手に気持ちを伝えなければならないのです。 特に送信者は相手の反応を即座に確認することができませんから、 失敗は許されません。何気ない送信者の一通のメールが相手の気 持ちを大きく傷つけることがあるのです。メールで事務的なYES, NOを伝えることは出来ますが、細かな感情を伝えることは非常に 難しいのです。「馬鹿」の一言でも、相手を侮蔑した「馬鹿」も あれば、あいづちに似た軽い否定の「馬鹿」もあります。会話な らば、相手の状況もわかることから使い方を間違うことは少ない でしょうし、もし間違ったとしても即座に取り消すなど、その場 をつくろうことができます。しかしメールは一方向であり、相手 がメールを読んでいる際の状況も、どのように解釈したかも即座 にはわからないのです。特に携帯でのメールは簡単に書ける、そ して送信できるということが災いして、会話と同じように思いつ くまま書き、そして送ってしまうことから、通常、幾度となく推 敲する手紙以上に感情を伝えることが困難なのです。

対面や電話での会話と手紙やパソコンでのメールに加えて、携帯 でのメールはまったく新しい意思疎通の道具なのです。扱い易い がうえに、短いメールでは相手に真意が伝わらない可能性があり、 誤解を生じる可能性があることを十分肝に据えるべきなのです。 容易に送信できる思慮の足りない携帯電話の一通のメールが、 思わぬ犯罪に関係することもあるのです。


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