徳島新聞 特集 「インターネットの光と影(上)」(2000年10月4日掲載記事)



有害情報


「浜崎あゆみのCDを聞くと洗脳されて馬鹿になってしまう…」とい うメールが広がっているそうである。もちろん、事実無根の悪質な 中傷メールである。古くから個人や団体を中傷誹謗するような「ビ ラ」を配布するような行為は、「怪文書」という形で存在していた。 しかし誰でも電子メールやホームページを作成閲覧できるインター ネットの時代になって「怪文書」が自己増殖されるようになったの ある。この事件はコミュニケーションの手段としての電子メールや ホームページの問題点を浮き彫りにした。まず第一に電子メールや ホームページの情報は一方向通信であるということ。インターネッ トは双方向の通信であり、相互に情報を伝達、共有するという意味 でインタラクティブであると捉えられている。しかし、電子メール 等は、その情報が伝わる速さゆえに一方向に次々と伝わる可能性が 高い。内容において確認が取れないのである。一方向通信ゆえに、 送り手の真意が受け手に伝わらないことが多いのである。第二に情 報伝達の速度。インターネット出現以前では、一般の人が一瞬にし て数多くの人に情報を伝える手段は存在しなかった。現在ではパソ コンや携帯電話から一瞬にして数多くの人に情報を伝えることがで きる。しかし、その情報伝達の制御ができないという欠点を有して いる。例えば、ある情報を電子メールで友人に送った場合、その情 報については、もはや制御することはできず、転送の可否はその友 人に託される。その転送が短い時間で数多く行われ、一瞬にして広 範囲に伝わるのである。この2点が原因となって、これまでの怪文 書は、信じられないスピードで「自己増殖」できるようになったの である。

電子メールによる誹謗中傷を防ぐことは簡単ではない。誹謗中傷を 行うものが特定できた場合、プロバイダに連絡を取り、ユーザ登録 を抹消してもらうことを要請することになる。掲示板等に書きこま れた場合も同様であるが、公開される事前に抹消することは難しく、 抹消を申請してもプロバイダ側は容易に受け入れない場合も多い。 なぜならば「誹謗中傷」に当たるか否か判断できない場合も多いか らである。基本的には、名誉毀損罪や侮辱罪で訴える法的対策が有 効となろう。

最近、ブームになっているカードゲームの珍しいカードを販売する とインターネット上に呼びかけて、代金をだまし取った事件がニュ ースになった。その他にもインターネット上で詐欺をはたらく事件 は多発している。これらの事件は、かならずしもインターネット特 有のものではなく、対面販売や電話での商法でも行われているもの である。しかし少なからずインターネットの上に書かれた情報は信 用できるという誤った認識があることは否定できないであろう。基 本的にインターネットでは、掲載している情報に関して何も保証し ていないことを意識すべきである。テレビや新聞、あるいは雑誌に おいても、その掲載広告を保証するものではない。しかし、従来の 広報媒体では基本的に少なくない費用がかかり、それが一つの詐欺 に対する歯止めになっていたことは事実であろう。いわば覚悟を決 めて、相応の投資をしてから詐欺をはたらかなければならなかった のである。ところが、インターネットでは誰でもが掲載広告に相当 する情報を発信することができるのである。罪の意識がなく、いわ ゆる軽い気持ちで詐欺をはたらく輩が出てきても何ら不思議ではな い。実際、上述のカードゲーム販売の詐欺は、19歳の学生であり 大した罪の意識はなかったようである。

インターネット自体に信用と責任はまったくないことを理解すべき である。信用はその情報の発信者に有り、その情報に対する責任は、 インターネットを利用する個人にあることを肝に命じるべきであろ う。


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