徳島新聞 特集 「インターネットの光と影(中)」(2000年10月5日掲載記事)



著作権


アメリカで大人気のロックバンドが新曲をレコード会社を通さずに インターネットで無償公開している。11月に発売予定のCDも全曲 インターネットで公開する予定である。レコード会社は大いに困惑、 反発しているそうである。なぜならば、その公開される音質はCDと 同等以上であり、音楽を聞くというだけの意味ではCDを購入する必 要がなくなり、レコード会社の利益が損なわれるからである。日本 でもインターネットを通して楽曲を販売することも行われているが、 10年以上前の古い音源を販売することが主であり、新譜に関して は、音質をわざと落としたり、30秒程度の部分的な視聴に止めて いる。インターネットが一般化した現在では、音楽をCDとして発売 する意味は薄れてきているのは事実である。CD自体は、音楽という デジタルデータを入れる、ただの箱なのである。レコード会社は箱 の製造と、その販売を受け持っているのである。レコード会社が楽 曲をインターネットで直接販売することに躊躇しているさらに一つ の理由は、著作権の問題である。言いかえると、インターネットで 販売する音楽データは、いわゆるデジタルデータであり、簡単にコ ピーすることができ、そのコピーされたデータを簡単に第三者へ送 ることもできる。コピーされた音楽データが出回ることによって、 その音楽の著作権者の利益が不正に犯されるということが問題とな っているのである。

アメリカでは今、「ナップスター」と呼ばれる音楽サイト(ホーム ページ)が大問題となっている。ナップスターは個人がCD等からコ ピーした音楽データを互いに交換するシステムを提供している。つ まり、CDを購入することなく、他人のCDの中の音楽データを得るこ とができるのである。このナップスターに対して、レコード会社や 音楽家の多くが、著作権を侵され、正当な利益を得られなくなると、 訴えている。しかし一部の音楽家らは、CDを購入した人にだけ与え るサービスや映像等を、その付加価値としてつけることにより、そ の販売自体に大きな影響を与えるものではないと主張し、ナップス ターを有効な広告媒体であると擁護している。ともあれ、不正コピ ーは、著作権の侵害にあたり法律違反である。生演奏でしか音楽を 聴けなかった時代からレコードという音楽を持ち歩ける時代になっ た時と同じように、大きな意識の転換点であることは否定できない であろう。

誰でもが音楽データをデジタルデータとして扱えるようになった現 在、コピーを確実に防ぐことは不可能である。音楽業界では防御策 として、オーディオ機器メーカーに協力を依頼して、機械的にコピ ーできないようにしたり、音楽データ自体に、「電子すかし」と呼 ばれる印鑑を押して、正当なデータか否かを見分ける方法を取ろう としている。

さらに今、個人のホームページにおける著作権の侵害が問題になっ ている。誰でもがホームページを作成できるようになったが、その 中で、写真や絵を用いることが多い。他人や企業のホームページか らダウンロードした写真や絵のデータを許可なく使用した場合、こ れは著作権の侵害となる。軽い気持ちで、アイドルの写真やアニメ の人気キャラクターを使っているホームページを多く見かけるが、 ある日突然に著作権者から訴えられて賠償請求されることを覚悟す べきなのである。インターネットの存在以前は、個人が著作権に関 係することは実際には、まず考えられなかった。しかし、インター ネットを利用することによって個人が不特定多数に対して直接交渉 できるようになり、著作権の侵害は予想できない不利益を与える可 能性がある。インターネットは世界に開かれた大きな窓であるが、 同時に著作権を含め、新たな問題にも窓が開かれているのである。

今年、歌手のミーシャが玩具会社を名前の不正使用で訴えていた。 玩具会社が販売したデジタルカメラの名前がミーシャだったのであ る。このような名前のトラブルもインターネットでは問題となって いる。topics.or.jpのようなホームページやメールのあて先をドメ イン名と呼ぶのであるが、そのドメイン名を不正に使用されるので ある。最近、自動車メーカーのトヨタが、不正に使用されている、 itoyota.comというドメインの差し止めを訴え、認められた。他にも 食品メーカーの加ト吉が、katokichi.co.jpを取得している第三者か ら、買取請求を受けるという事態が発生している。悪意を有するも のが、紛らわしい名前を利用して、犯罪を起こすことも考えられる のである。インターネットの上の世界は「サイバースペース」と呼 ばれるが、サイバースペースでも実際の社会と類似の問題が起こっ ているのである。


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