徳島新聞 2001年年頭記事

徳島新聞「2001年徳島県内産業・経済界のIT化の現状と課題、今後の見通し」(2001年1月1日掲載記事)

徳島県の産業技術振興施策への提言

政府はIT（情報通信技術）を基に国家の経済的な再生を目指し、IT 基本法の制定だけでなく、ITに関係するインフラ整備およびビジネスプラン、教育、行政サービス等、様々な分野に投資を行っている。これは明らかに21世紀がITによる社会変革の時代であることを認め、 ITに関わる広い意味でのインフラ、すなわち技術的な形有るものの整備を含めて、人々の意識改革を進めなければ将来の発展は望めないからである。21世紀への入り口は、数万年前の農業革命、18世紀から19世紀にかけて世界各国で始まり、２０世紀になってその円熟期を向かえた産業革命に続く、新たなIT革命の時代への幕開けである。２０世紀において産業革命の波に乗り遅れた、いわゆる開発途上国は、次世紀においての国の発展を望み、積極的にIT革命の波の先頭に立とうとしている。特に台湾、シンガポール、マレーシア、インド等、アジア諸国の台頭は目覚しい。デジタルデバイドとは、一般に高齢者や身障者等の、ややもするとITの恩恵に授かれない、もしくは敬遠しがちな人々に対する情報格差の問題と捉えられている。さらに広く、産業革命時の南北問題と同様、IT革命を進めることによって富める国と貧する国の二極分化が進む問題を指すこともある。しかし最も危惧されるのが、国内の地域的なデジタルデバイドの問題、徳島と中央、さらに他の地方とのデジタルデバイドの問題が、革命の名が示すごとく、様々な分野への影響の基に、それぞれにおいて格差をもたらすことである。

徳島ではベンチャー企業育成に行政が力を入れているということである。確かに金額的にも少なくなく、また多種にわたる企業育成プランや助成策等が用意されている。では、徳島からベンチャー企業が、その投資額に見合う数および規模で育っているであろうか。必ずしも肯定的な意見は少ないであろう。理由はいたって簡単である。 IT革命の意味が必ずしも理解されていないからだ。この数十年にわたる産業革命の円熟期に培われた価値観によって、ベンチャー企業の創出、育成、更に広く既存企業の育成を行おうとするからなのである。

まず、企業に発想転換を求める以前に行政自体が発想の転換を行うべきである。IT革命の骨格はデジタルと言う言葉で代表される理念である。デジタルとは言わば、「目的を達成するために手段を最適化すること」である。アナログと言われる従来の考え方は「広く浅く」という、関連するすべての事柄に対処した方法論である。デジタルでは、対象を絞って、その目的を明確にするとともに、それを達成するために、出来うる限りの無駄を省く方法論である。徳島の産業全体の底上げを目指すのではなく、過去のしがらみを立ちきった重点的な産業振興施策を取るべきであろう。確かに徳島県という狭く、また県全体の経済規模から考えて既存企業の一部でも見捨てることには大きな痛みを伴うであろう。しかし、見捨てるのではなく据え置くのである。少なくとも既存の産業、あるいはその企業の次世代に向けた体質変換を支援することは否定しないが、決して保護すべきではない。自らの経営努力なき産業を保護した結末は、歴史を見れば明らかである。今後、デジタル的な発想に基づく産業振興施策を期待したい。

特に徳島県には情報通信関連のソフトウエア産業を重点領域に選ぶことを望む。その理由は立地である。ソフトウエア産業にとって後述するITインフラは不可欠であるが、それと同様に人的交流も不可欠である。徳島は空港が中心部に近い上に、最近になって高速道路が整備され、県西および四国主要部からのアクセスは容易であり、京阪神地域に隣接している。また国際空港である関西空港に十分アクセス可能な範囲にある。更にソフトウエアは知恵であり、人が作るものである。人材は何にもまして重要である。徳島は他の地方に比較して大学が多く、そして京阪神の人材を取りこめる可能性がある。さらに何よりも大きなビジネスチャンスに隣接している。その一つはジャストシステムである。ジャストシステムは徳島のソフトウエア産業にとって多大なる貢献を行っている。それはジャストシステム自身の経営発展ではなく、ジャストシステムから離れた優れた人材が衛星的に企業を徳島、あるいは徳島に軸足を残しながら東京で起業している。また更なる一つは対岸の大阪に出来るUSJ（ユニバーサルスタジオジャパン）である。USJは単なるアミューズメントパークではなく、エンターテイメント産業の一大拠点である。USJを核にして、CGを含む映像およびコンピュータ技術産業、それらを支えるIT産業の集約地域となり、シリコンバレー以上の発展を遂げる可能性が有る。

ソフトウエア産業の一大拠点となるためにはITインフラの整備を行うことが不可欠である。またITインフラはソフトウエア産業だけでなく、すべての産業や社会構造を巻き込んだIT革命を担うためにも不可欠であり、この構築無くして県民へ普くIT革命の恩恵を被ることは期待できない。ITインフラで最も重要な機能はブロードバンドと呼ばれる高速大容量ネットワークの構築である。既に他府県では「情報スーパーハイウエイ」の名の基に整備が進められている。徳島でも、臆することなく一時でも早くこの整備を進めるべきである。更にこのネットワークを作るだけでなく実際に活用し得るように施策を練るべきである。「県民普く」のうたい文句を歪曲し、一部の企業や個人に優先的に使用させることを躊躇してはいけない。従来からの「結果の平等」ではなく、「機会の平等」に基づくべきである。

行政側が情報スーパーハイウエイに関わるインフラ整備およびその有効利用、すなわち特定企業に対して行政側の補助によって安価にその利用を促すことを躊躇するひとつの理由は、「民業圧迫」に抵触することである。しかし、大局的に考えれば決して、情報通信インフラの利用助成は民業を圧迫するものではなく、逆に活性化させるものである。民間で営んでいるインフラはその需要がなければその民業自体が成り立たない。行政からのインフラ利用助成はその需要を押し上げ、民業の圧迫どころか間接的な助成になるのである。

行政は進んで、ビジネスチャンスを平等に与えるとともに、地方においてはその種火をつけなければならない。種火がなければビジネスと言う炎は決して燃え盛らないのである。東京のように切磋琢磨している企業が集約している地域では、その摩擦熱で自然と種火が興り、その種火が燃え盛る火から炎へと核融合のごとく相互作用を引き起こすのである。

今、徳島県として必要な一つの施策は、その種火を付けることである。そして、種火に集まる企業の集約化である。シリコンバレーの例を上げるまでもなく、企業間の集約化は、その相互作用から大きな成果を導くのである。その集約化のために地縁社会では場所、仮想社会では高速ネットワークが必要なのである。

例えば、広い会議室を簡易的に高々20㎡程度に間切りし、期間を２年程度に制限して、簡単な審査をして企業、個人を問わず「場」を提供するのである。その「場」には共同で利用できる印刷機や福祉設備等を実費で提供する。さらにITインフラの核である高速なネットワークを安価に提供する。ここで重要なことは「場」も実費で提供することである。基本的には初年度無料で提供し、利益が上がれば翌年度、利益に応じて徴集するのである。「場」とネットワークを提供することこそ、新規産業の起業、発展に大きく貢献すると考えられる。

最後に、徳島県は、次世代を深い思慮のもとに考察し、特に土木事業においては、狭視野的なポピュリズム（大衆迎合主義）に陥ることを勇気を持って否定し、その施策を押し進めている。今こそ、産業振興策においても、目先の利益、効果にこだわらず、先を見据えた広い視野に基づき、勇気を持って決断する時期である。

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徳島県の産業技術振興施策への提言

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