理論研究で得られた知見はそれを応用した製品を開発することで初めて実社会で意味のあるものとなります. 電気電子における製品開発は機械や回路の製作を伴うことから,研究機関よりは企業が専門とするところです. コンピュータとネットワークを扱う情報通信研究室ではプログラミング言語を用いることで理論研究の成果を自身の手で形にすることができます. 情報通信研究室では様々な応用研究に取り組んでいます. 近年の応用研究の例を挙げると,新しい二次元コードの開発や,QRコードの改良,不正アクセスやマルウェアの可視化などがあります. いずれも符号理論や不正アクセスやマルウェアの解析などの理論研究の成果を応用したものです.
コンピュータは0と1で表現された情報つまりデジタル情報を扱います. 符号理論の研究はデジタル情報をいかに効率的かつ正確に保存または送受信するかを考えることです. 符号はデジタル情報を扱う様々な場面の裏側で活躍しています. 身近なところで例を挙げるとCD/DVD/BDや地上デジタル放送があります. いずれもリード・ソロモン符号という符号を用いてデジタル情報に生じた誤りを訂正しています. このおかげでCDに少しぐらい傷が入っても問題なく音楽を聴くことができ,アナログ放送ではノイズが入っていた番組もデジタル放送ではきれいな画面で視聴できるようになりました. あの小惑星探査機「はやぶさ」でも地球から遠く離れた場所から正確に通信するために符号が使用されました. 様々な場面で役に立っている符号ですがまだまだ研究の余地があります. 情報通信研究室では研究が盛んなLDPC符号や新しい通信路であるシンボルペア通信路など最先端の研究を行っており多くの成果を挙げています.
SNSサイトでプライベートな情報を限定公開したりネットショッピングでクレジットカードの情報を送る場合など,インターネット上で大事な情報をやりとりする機会が増えています. しかしインターネットなどでの通信では悪意を持った人に盗聴されたり改ざんされたりする危険性があります. これを防ぎ安全な通信を実現する技術が暗号です. もし使用している暗号に脆弱性があると盗聴や改ざんを許すことになり危険です. そのため暗号に脆弱性がないかどうかを調べる安全性評価が重要です. 情報通信研究室では実際に暗号解読を試みることで様々な暗号の安全性評価を行っています. とりわけ共通鍵暗号の一種であるストリーム暗号の解析で多くの研究成果を挙げており,WEPの解読もこの流れを含んでいます. 近年は公開鍵暗号であるナップザック暗号の解読法の確立や,線型解読法やIntegral攻撃を用いたブロック暗号の解読といった研究成果も挙げています.
標的型攻撃やランサムウェアなどのサイバー攻撃が度々ニュースになっています. 情報社会は利便性の裏で情報漏えいなどのリスクを抱えており,セキュリティを高めることは非常に重要です. 情報通信研究室では主にマルウェアと悪意を持ったアクセスに対するセキュリティ対策の研究を行っています. コンピュータウィルスやワームに代表されるマルウェアは日々新種が出現し多様化しています. 情報通信研究室ではマルウェア被害の拡大を防ぐために実物のマルウェアを使用してマルウェアを解析・分類する手法の研究を行っています. またダークネットやハニーポットを利用して悪意を持ったアクセスの情報を収集し,無関係なアクセスとの識別や攻撃の傾向を調べる研究を行っています.