森井教授のインターネット講座 最新版(2000年6月24日掲載記事)



第144回 インターネット銀行




金融や資産運用に関わる機関の再編成が以前にも増して話題になっ ています。この原稿を書いている際も、大手の生命保険会社の破綻 が伝えられ、また別の保険会社は外国からの資本を入れることによ って、経営再建を図るというニュースが伝えられました。ここ数年 来、破綻する銀行も現れ、破綻しなくとも経営を維持し、今後の競 争に打ち勝つために、大手銀行同士の合併が進んでいます。いわゆ る「金融再編」と呼ばれる時代の中、インターネット銀行を設立す る動きが活発化しています。電機メーカや流通業といった従来では、 金融業に手を出せなかった業界が、規制緩和の後押しを受けて、イ ンターネットを利用した金融業に乗り出そうとしています。先日、 この異業種が銀行業に乗り出す際の指針が政府によって明らかにさ れました。すなわち、異業種が銀行業を行う際に危惧される点につ いて、その解決法の指針を与えたのです。まず、何よりも親会社と 子会社である銀行との独立性です。親会社の経営および事業が銀行 の経営を大きく左右するようでは安定した銀行業務を行えません。 さらに大きな問題点は、顧客である個人の情報管理です。銀行は個 人の資産管理、および決済事項の一翼を担っています。その情報を 得ることは、個人の生活形態を知ることになり、重要なプライバシ ーを管理していることになります。その情報が親会社とは言え、他 機関に、その個人の承諾無しに漏れることは、プライバシーの侵害 に該当します。規制緩和とは言え、様々な制約条件が課されること が予想される異業種の銀行業参入ですが、既存の大銀行でさえ、破 綻、再編しつつある現状で、成り立つのでしょうか。この回答が銀 行業とインターネットの親和性を表しています。

インターネット銀行とは、実際の店舗を持たず、ネットワーク上に 仮想店舗と言う形でホームページを持ち、そのホームページ上で銀 行業務を顧客に対して行おうとするものです。銀行業務の本質は、 「お金」という情報のやりとりを仲介するサービスです。私達は、 お金と言う存在を、500円硬貨や1万円札といった「物」として 認識していますが、実際は、その「物」自体はシンボルであり、そ のシンボルの意味(情報)自体に価値があるのです。「物」をイン ターネットで送ることはできませんが、情報を送ることは可能です。 今まで、「お金」を「物」として扱うことによって、その「物」を 受け取る、あるいは受け渡す実態が必要になり、それが店舗と言う 形になっていたわけです。店舗を運営するためには人手も必要にな り、大きなコストを被る結果となっています。最近の銀行店舗では、 ATMと呼ばれる現金自動支払い機が置かれ、その端末で、個人が通常 行う銀行サービスのすべてを行うことが出来、銀行も手数料を値引 くなどして、ATMで済ますことを勧めています。インターネット銀行 は、このATMをインターネットの上で実現し、いつでもどこでもATM を操作することができるようにしているのです。したがってインタ ーネット銀行では店舗が必要なく、また人手も少数で済むことから コストを極端に小さくすることができるわけです。そしてそのコス トの減少分を利子等に回し、顧客の要求するサービス、すなわち高 利子を提供しようとしています。しかし、ATMがインターネットにつ ながったとしても現金、すなわち「物」である「お金」を手にする ことはできません。次回において、この価値を行使する方法と関係 つけて、インターネット銀行を説明しましょう。


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