世間では「IT革命」という語句が踊っています。今月の沖縄サミッ ト(先進国首脳会談)で中心議題として取り上げられ、また新たに 成立した森内閣でも、IT戦略本部が新設され、本部長を首相自ら務 めるとともに、担当大臣も置く力の入れようです。では、IT革命と は何なのでしょうか。何に期待しているのでしょうか。
ITとはInformation Technologyの頭文字で、情報技術、あるいは情 報通信技術と訳されます。インターネットに代表される情報通信技 術がこれからの社会を大きく変えていくであろうことは、誰でもが 認める事実になりました。その社会変革をスムーズに受け入れるた めの準備、さらに国際的に遅れることなく推し進めるためのインフ ラ(社会基盤)を整備することが、経済的に停滞しているわが国の 早急の課題であると考えられているのです。その社会変革を理解す るために18世紀から19世紀にかけて進められた産業革命をひも解く ことが早道です。
産業革命で代表されるのはワットの蒸気機関です。この発明によっ て、大量に物を、さらにその物を作る機械自身を生産できるように なりました。この物質の豊かさは人々の生活、つまりライフスタイ ルを一変させました。20世紀は、この産業革命の集大成の時代で す。20世紀、特にその後半のライフスタイルを一言で表せば「マ ス(大衆)」の時代と言えるでしょう。鉄道網さらに自動車道路、 空路が整備され、結果として「距離(空間)」という障害が緩和さ れ、生産物を運ぶと共に、大衆が集団としての情報を共有する時代 がやってきました。さらにラジオやテレビに代表される放送は、大 衆が情報を共有するために要する時間を縮めました。
IT革命によって、もたらされるであろう21世紀のライフスタイルは、 「個」の時代と考えられます。大衆が一方向の情報を共有する時代 から個人が双方向の情報を共有する時代になります。さらに電話程 度の技術であった、個々の情報を共有する手段が、情報通信技術の 発達によって、三次元画像や触覚、臭覚といった感覚を共有できる ようになり、無限大の情報を一瞬にして双方向で伝達できる時代と なるのです。世の中は「時空」という言葉が表すように、「空間」 と「時間」から成り立っています。人間のコミュニケーションを考 えた場合、産業革命は「空間」を著しく縮めることに成功しました。 IT革命は「時間」を著しく縮める可能性を秘めています。このこと が人々のライフスタイルを一変させ、大きな社会変革をもたらすの です。従来の組織と大衆との間のサービス(生産)活動から、組織 と個人のサービス活動に、そして個人と個人のサービス活動に移行 することにより、経済を含む社会構造が激変します。それに対応で きなければ真の意味の21世紀はやって来ないのです。その呼び水が IT革命なのです。