今年度のノーベル化学賞に元筑波大学教授の白川英樹先生が選定さ れました。わが国の研究者が受賞するのは、自然科学分野、いわゆ る理科系の分野では13年ぶりです。明るいニュースであると同時 に、独創的な発想に基づく基礎研究が少なからず軽んじられている 現状を浮き出させているようです。白川先生の受賞対象の研究も、 当初は注目されず、約30年を経ての受賞となっています。これか ら、日本において独創的な研究に取り組む人が数多く現れる、つま り日本が目指す「科学技術立国」の基盤を担う人材が数多く育つか は、教育の大きな問題でしょう。奇しくも国会で教育に関する問題 が議論されるようになってきました。この受賞が、これからの教育 の一つの指針となることを望んでいます。
今回のノーベル化学賞の対象は、「導電性ポリマー」とよばれる物 質の開発、基礎研究に関するものです。わかりやすく言うと電気を 通すプラスティックということになりますが、単にそれだけではな く、その研究が発端となって、様々な電気的な性質を持つ高分子化 合物が開発、研究されました。その恩恵を顕著に与かっているもの が携帯電話でしょう。普及が目覚しい携帯電話ですが、その中はハ イテク技術の結集となっています。機種にも寄りますが、1台あた りの原価は2万円から3万円もするのです。まずはコンデンサに導電 性ポリマーが使われています。コンデンサは電気工学を勉強した人 にはよくわかるでしょうが、電気回路の根本的基礎部品です。大げ さに言うと、すべての電気回路というものは、抵抗とコイル、そし てコンデンサで構成されます。導電性ポリマーを使えば、コンデン サの画期的な小型化が実現できるのです。携帯電話にとって、製品 の小型化は必須の技術なのです。次に電池です。電池も導電性ポリ マーを使えば、軽く小型で、しかも寿命の長い製品ができるのです。 液晶ディスプレイにも導電性ポリマーの一種を使うことが考えられ ています。「有機ELディスプレイ」と呼ばれる製品です。液晶の一 つの欠点は暗いことです。これを補うために、後ろから光を当てて、 画面を明るくしているのです。しかし、そのために大きな電力を必 要として、電池の寿命を縮めています。有機ELディスプレイは、液 晶自体が電気を通して発光するのです。さらに液晶のもう一つの欠 点である動作速度も格段に速くなり、次世代携帯電話で目的として いる動画を美しく表示させることができるます。今回のノーベル賞 は日本のIT立国へ向けての振鈴となることでしょう。