森井教授のインターネット講座 最新版(2002年10月7日掲載記事)



第218回 ユビキタス社会


解説イメージ

ITという言葉が最近になって、説明を付け加えられることなしに使 われるようになりました。IT産業だとかIT社会という言葉の意味も、 正確にはわからないにしても、コンピューターやインターネットを 利用した産業だとか社会だというイメージが定着したからでしょう。 ここでまた新しい言葉が流行しようとしています。それは「ユビキ タス」という言葉です。ユビキタス Ubiquitous はラテン語で、 「遍在」という意味です。遍在とは、「どこにでもある」という意 味で、情報通信の世界で用いられる場合は、「いつでも、どこでも、 誰とでもコンピューターやインターネットを利用できること」を意 味します。ITという言葉はよく使われるようになりましたが、IT自 体はまだまだすべての人が利用している、あるいは恩恵を被ってい るとは言えません。このITが普くすべての人に恩恵を与えることを ユビキタスコンピューティングと呼び、それが実現する社会をユビ キタス社会と呼ぶのです。

「いつでも」は安価で高速なインターネットが利用できるようにな り、ほぼ実現しつつあります。10Mbps(一秒間に文庫本の内 容を数冊送ることができる速さ)以上の速度のADSL(電話線を 利用したインターネットの方式)が月額数千円で利用できるのです。 「どこでも」はインターネットが利用できる携帯電話の普及やPD A(携帯端末)と呼ばれる高性能の携帯型コンピューターが安価に なってきたことから実現が目の前にあります。また無線インターネ ットの出現によって「ホットスポット」と呼ばれる無線でインター ネットに接続できるエリアが増えてきています。ファーストフード 店やホテルのロビー、駅や公園といった公共施設で利用できるよう に整備されつつあるのです。ただ、この「どこでも」は地方にとっ ては大きな課題が残されています。ホットスポット等は人が多い都 会の中心地でのみ整備されつつあり、地方では、まだADSLやC ATVでの高速インターネットすら利用できない地域があります。 このデジタルデバイド(ITの地域格差)の問題はユビキタス社会 の実現においても大きな課題の一つです。最後に「誰とでも」は、 いくつもの問題を抱えています。まずは高齢者や身体障害者を含め、 誰でもがコンピューターやインターネットを使えなければなりませ ん。せめてテレビやビデオ並に使えるようにしなければなりません が、まだまだそのハードルは高いと言わざる得ません。また、「誰 とでも」には人だけでなく、機械や品物ともインターネット等を使 って情報交換を行う意味があります。例えば、ETC(有料道路自 動料金支払システム)等です。車だけでなく、電車に乗るにしても、 料金を確かめて切符を買うことなく、改札を通るだけで、自動的に 料金が支払われたりするような仕組みも必要になってきます。これ については、すでに一部で実用化されています。もうひとつ、「 誰とでも」の最大の課題はセキュリティです。誰とでも何とでも、 情報交換が出来るということは、文字通りに解釈すると、誰からで もプライバシーを犯されたり、個人が有する価値ある情報を盗まれ たりする可能性が高くなるということです。これを防がなければ、 「誰とでも」が実現できないことと同じなのです。


前回掲載記事はこちら
次回掲載記事はこちら

森井教授のインターネット講座ホームページ