森井教授のインターネット講座 最新版(2003年12月22日掲載記事)



第247回 コンピューターの中の日本語(下)


解説イメージ

前回、これまでの「話し言葉」と「書き言葉」としての日本語の他 に、新しくコンピューターによる「打ち言葉」としての日本語があ ると書きました。コンピューターから入力して書き上げる文章が、 従来からの手書きの文章に比べて大きく変化しようとしているので す。この「打ち言葉」ですが、正確には、従来の書き言葉を新たに 構成しようとする「ワープロ言葉」と、インターネットを利用して パソコンや携帯電話から入力する比較的短い文章である「メール言 葉」に分けられます。

パソコンから入力して文章を構成していく「ワープロ言葉」では、 従来の書き言葉に比較して、一般に漢字、特に難しい漢字の利用頻 度が増加しています。これまでの手書きでは、利用する漢字の正し さに自信がない場合、その漢字の利用を避ける傾向がありました。 パソコンの場合は、その候補を順次羅列することから、曖昧な記憶 でも正しい漢字を見つけることが可能です。したがって、漢字を多 用する傾向にあるようです。しかし、パソコンの入力方法の特徴に よって独特の間違いが増えています。それは同音異義語での誤用で す。パソコンでの入力は、かな入力であれ、ローマ字入力であれ、 その読み方によって漢字を指定します。したがって、適切な漢字以 外の同音異義語が指定される可能性があるのです。最近のパソコン のワープロソフトでは、同音異義語が多数あったとしても、前後か ら意味を類推して、適切な漢字を割り当てるようになっています。 しかし、必ずしも正確ではなく、誤用を引き起こす場合も少なくは 有りません。特に似通った意味を持つ同音異義語が有る場合、誤用 が多くなります。例えば、「態勢」と「体勢」です。「追求」、 「追究」、「追及」の3つも似通った意味を有します。これらは手 書きでも、誤用される場合もあります。しかし、パソコン入力では、 意味ではなく、その字体が似通っている同音異義語でも誤用が多く なります。例えば、「内蔵」と「内臓」です。意味が大きく異なる ことから、手書きでは決して間違いませんが、パソコン入力では、 誤って利用される可能性が少なくないのです。

「打ち言葉」でも、携帯電話で利用されるメールでは、文法自体、 大きく変わろうとし、より「話し言葉」に近づこうとしています。 「話し言葉」の特徴は、その言葉だけに意味を持つのではなく、 その言葉を発する個人と相手、および時間と場所を含めたその周り の環境に大きく左右されます。「話し言葉」は、お互いに言葉のや り取りを頻繁に繰り返すことによって、相互理解を深めていく形式 になっています。「話し言葉」と「メール言葉」の大きな違いは、 会話の相手と同じ時間と環境にいないということです。この大きな 違いを補うべく、「メール言葉」では、絵文字や記号、あるいは 独特な語尾の変化を使って、「話し言葉」以上に文法を乗り越えて 新しい言葉を作ろうとしています。


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