森井教授のインターネット講座 最新版(2003年12月29日掲載記事)



第248回 風説の流布


解説イメージ

「風説」とは、いわゆる噂(うわさ)のことであり、「風説の流布」 とは、三省堂の「デイリー新語辞典」によると「株式相場の変動を 図る目的で,虚偽の情報や未確認の噂を流布する行為。」となって います。最近では、株式相場の分野だけでなく、会社や個人を誹謗 ・中傷する情報を不特定多数に伝え、損害を与える行為全体にも使 われます。

12月25日のクリスマスの日に、佐賀県において、「佐賀銀行がつぶ れる」という内容のメールが不特定多数に配信され、その内容を信 じた人たちが、預金を下ろすために銀行に殺到すると言う事件が起 こりました。もちろん、まったくの虚偽、いわゆるデマのニュース であり、佐賀銀行としては突然の大量の預金引き落としによって、 ATM(現金自動支払機)内の紙幣が不足したり、窓口や電話での対応 に係員が追われるという事態が発生し、何よりも信用を傷つけられ ると言う大きな損害を受けました。佐賀銀行が警察に刑事告訴した ことによって捜査が始まったところであり、事件の詳細、特に誰が 何を目的に、そのような内容のメールを出したのかも明らかになっ ていませんが、遠からず犯人が逮捕され、明らかになることでしょ う。

この事件をメールを出した側とメールを読んで行動を起こした側の 二つの視点で眺めることとします。まず前者では、稚拙なメールの 内容から犯罪行為という自覚のない「いたずら」である可能性もあ ります。今回のような大きな騒動になるようなことを予想せず、単 なる噂を広めようとしたことも考えられます。従来の人の口を介し た噂であれば、その噂が広まるまでに長い時間を要し、大概の噂は その長い時間の間に正確な情報によって淘汰されます。しかし、最 近の携帯電話やパソコンを利用したメールであれば、一瞬にして不 特定多数に広まってしまいます。その内容の真偽が十分確かめられ ないうちに、多くの人に伝わってしまいます。メールを受けた人が、 その情報をまた他の人にメールで伝え、一人が何人、何十人にも同 時にメールを送ることから、一瞬にして、しかもねずみ算式にメー ルが増えてしまうのです。それはチェーンメールと呼ばれ、伝えら れる内容によって混乱を引き起こすだけでなく、メールの数が一瞬 にして増加することから、メールを配信するシステムが混乱し、場 合によってはメールが送られない、遅配するなどの障害が起こりま す。

メールを読む側に視点をおくと、その内容の真偽について十分に吟 味する必要があるということです。メール、あるいはインターネット の掲示板は、テレビやラジオ、新聞と同等に考える人がいるようで す。情報を不特定多数に送ることが出来るという意味では同等です が、その内容の責任においてはまったく異なります。テレビやラジ オ、新聞であれば、その運用会社の責任において情報を流していま す。真偽については、完全でないとはいえ、運用会社が保証してい るのです。メールやインターネットの掲示板は、その真偽について 誰も保証していません。読む側の責任において判断しなければなら ないのです。

これからもメールやインターネットの掲示板を利用した「風説の流 布」が引き起こされることでしょう。これからの情報過多の時代は、 一人一人が情報の価値を判断するという能力が求められています。


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