森井教授のインターネット講座 最新版(2004年1月12日掲載記事)



第250回 グリッドコンピューティング


解説イメージ

以前、「青空文庫」という、著作権の切れた文芸作品を電子化、つ まり活字からパソコンに入力し、インターネットで公開する活動を 紹介しました。作家が没後50年を経ることによって、その作品の著 作権が消滅することから、例えば、1948年に没した太宰治や1949年 に没した、徳島に所縁がある海野十三の作品の多くがインターネッ トを介して無償で公開されているのです。この活動は、電子化を行 うボランティアによって支えられています。このボランティアたち を助けているのもインターネット技術です。つまり、インターネッ トによって連絡を取りながら、多くのボランティアが作業を効率的 に分担しているのです。難しい言葉で言うと、「協調分散環境」と いうものを実現しているのです。青空文庫の場合、ひとりひとりの 人間の小さな力を結集させて、大きな仕事を成し遂げるためにイン ターネットが利用されていました。直接的に人間ではなく、パソコ ン自体の力を結集させて、スーパーコンピューターと呼ばれる超高 性能なコンピューターに匹敵する能力を持たせる技術が今、注目さ れています。グリッドコンピューティングと呼ばれ、インターネッ トを利用して、数多くのパソコンを接続し、大規模な計算を小さな 問題に分割し、効率よく分散させて計算を行い、再度、その結果を 収集して、再構築し、結果として大規模な計算を行おうという考え 方です。例えば、コンピューターグラフィックス(CG)で映像を作る 場合、非常に大規模な計算を行う必要があります。場合によっては、 数秒の映像を作るために、パソコンの百倍以上の価格であるCG専用 のコンピューターを利用して、数日間も計算を要するのです。しか し、一般のパソコンでも、その性能の向上は著しく、しかもより低 価格になってきています。このようなパソコンを数十台、あるいは 百台以上接続し、それぞれに分割して計算を行うほうが、価格も安 く、より効率的なのです。さらにグリッドコンピューティングの概 念では、インターネットを介して、世界中のパソコンと連携し、大 規模な計算を行うことが特徴です。パソコンは電源を入れると常に、 その能力の最大を費やしているわけではありません。たとえば、イ ンターネットでホームページを見ながら、ワープロを動かしたとし ても、パソコンの最大性能の半分も出していないことが多いのです。 グリッドコンピューティングでは、この残りの半分の性能を効率よ く、有効に使おうとするものです。グリッドコンピューティングと いう用語を世に知らしめたのは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の SETIというプロジェクトです。SETIでは、宇宙からの電波をコンピ ューターを使って解析し、知的文明の探索を行っています。この解 析を、世界中のインターネットにつながっているパソコンを利用し て行おうとするプロジェクトです。パソコンがインターネットにさ え、つながっていれば、誰でもその解析に参加することができるの です。パソコンを利用して、文章を書いたり、ゲームを楽しんでい る間に、パソコンが自動的にNASAのプロジェクトの一員となって、 内職(アルバイト)に励んでくれるのです。今では宇宙探査だけで なく、さまざま問題にグリッドコンピューティングを利用して、挑 んでいます。 http://www2.117.ne.jp/~mat/dcomp/shoukai.htm


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