徳島新聞 特集 「インターネットの光と影(下)」(2000年10月6日掲載記事)



チェーンメール


「このメールを5人に転送すれば、携帯電話通話料金を半額にしま す。」というメールが先月、多数の人に送られた。もちろん、虚偽 の内容である。この問題は携帯電話会社を混乱に陥れただけでなく、 「チェーンメール」というインターネットにとって大きな被害を及 ぼす可能性がある。電子メールは一瞬にして相手に届き、デジタル 情報ゆえ、コピーも簡単であり、大した手間もなく一瞬で多数に電 子メールを送ることが可能である。チェーンメールはこの性質を利 用して、メールがインターネット上に大氾濫する現象である。メール の数は時間とともにねずみ算式に増え、最初にたった一人が5通だけ メールを出したとすると、その指示にしたがって、受け手が各自メ ールを出しつづければ、数時間後には数千万通以上になる。数日立 てば天文学的な数字となるのである。これがメールだけでなく、イ ンターネット全体を大混乱に陥れるのである。インターネットのシ ステムの上では、メールだとかホームページだとか画像というデー タの分類を行わず、すべて同じデジタルデータとして扱う。したが ってチェーンメールという必要のないデジタルデータが大量に出回 り、本来必要なデジタルデータの伝送を妨げるのである。インター ネットはすでに電話を含めたすべての通信手段の基盤となりつつあ る。それを崩壊させる危険性をチェインメールは有している。

数年前、「友人の妹の手術において特殊な血液型が必要であり、協 力を望む」というメールがインターネットを駆け巡った。すぐに血 液の提供者が多数現れ、インターネットの威力をまざまざと見せ付 ける美談となった。しかし、このメールの末尾に「できるだけ多く の人にメールを回してほしい」と書き添えられていたため、数日後 になっても、このメールが氾濫し、インターネットが大混乱に陥り、 大学や企業、あるいはプロバイダの一部ではネットワークが機能し なくなるまでになったのである。この事件は発信元が電子メールを 制御できなくなる典型であり、必ずしも悪意がなくともチェーンメ ール化することを示している。

チェーンメールではないが、「ねずみ講」に類する非常にトラブル に巻き込まれる可能性の高い、メールを使ったマネーゲームも流布 している。「4人の参加者の口座に1,000円ずつ振り込めば、数週間 後には数十万円が手にはいる!」と誘い込み、参加者の名前を書いた メールを送るのである。無限に続かない仕組みを用いているため、 法律的には「ねずみ講(無限連鎖講)」に該当しないという解釈も あるようだが、行き詰まる限界が存在することは明らかであり、ト ラブルの原因に成り得ることは十分予想できる。これも電子メール の手軽さゆえに手を染めることになってしまうのであろう。インタ ーネットの素晴らしさは同時に恐怖なのである。

電子メールの最大の問題点は「相手の顔が見えない」ということで ある。電話も同様だが、大きな違いは即応性である。電子メールは 電話と異なり、リアルタイムで応答することができない。電子メー ルでの不注意な一言が、否定できないうちに大勢に広まってしまう 可能性がある。電子メールの利点として、相手の都合を考えること なく、いつでもメールを送れ、受け手は自分の都合に合わせて返事 を送れることだと言われる。逆に解釈すれば、受け手はいつ、いか なる時に読んでいるかわからないのである。これはメールを受け取 る相手のことを考えないと言うことを意味する。即時性がないこと ともあいまって、文章の真意が正確に相手に伝わっているかは大い に疑問である。電子メールでのルールおよびマナーの基本は、「相 手の立場」で考えるというコミュニケーションの基本に通じるので ある。


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